平成132 5
加速器勉強会資料

「蓄積リングの真空について」

 

大石 真也
蓄積リングの真空

真空(圧力)は何で決まるか

真空チェンバの材質

真空ポンプ

真空の測定

その他の特徴的機器

蓄積リング真空系の系統

インターロック

蓄積リングの現在の問題点


 

蓄積リングの真空


なぜ、真空にするか。・・・電子が散乱されないため。
 
大気圧 101325Pa 760Torr 1 ata (0ata)
SR on beam 10-7Pa 10-9Torr 10-12ata
R off beam 10-9Pa  10-11Torr  10-14ata

残留ガスをN2として、分子1個が占める体積は?

分子直径3.75E-10m

アボガドロ数Na6.022E+23/mol

完全気体の体積V2.24E-2m3/mol (1ata0)

大気圧で1個の分子が占める体積:V/Na=3.72E-26 m3/

SR on beamのとき(P=1E-12ataのとき):V/Na/P=3.72E-14  m3/

窒素分子を直径1mmに拡大すると、 大気圧で1個の分子が占める体積:

V/Na=3.72E-26*(1/3.75E-7)^3=7.05E-7 m3/

=0.705cm3/個 =8.9mm^3 /

SR on beamのとき(P=1E-12ataのとき):

V/Na/P=3.72E-14*(1/3.75E-7)^3=705422 m3/

=89m^3  /

参考:窒素分子の最確速度(20℃)=417m/sec1500km/hr

m/sec129×(T/M)-1/2、v:最確速度、T:絶対温度、M:分子量

水素分子の平均自由行程

12cm1ata293K

    1. 2E+9km1E-12ata293K=1.2E+94E+4(地球半径6378km*2π)
=30000回(地球周回)

1.2E+9km1.56km/sec(=水素分子の最確速度)=7.7E+8sec24years

真空寿命

電子が残留ガスとの衝突等で、散乱、エネルギ損失を起こす。

・残留気体の原子核との散乱(Ratherford scattering

・原子核による制動放射(Bremsstrahlung)・・・これが一番効いている

・残留気体の核外電子との衝突(Moller scattering

これらの衝突断面積の和σと圧力Pの積の逆数が寿命τとなる。

τ(寿命)=1/(σ×P)

低い圧力で、重い気体がないことが良い。


 
 



 

真空(圧力)は何で決まるか。


真空ポンプの到達圧力P(高真空〜超高真空)

圧力P(Pa)=ガス放出量Q(Pam3/sec)/ポンプ排気速度S(m3/sec

2点間の圧力差ΔP(高真空〜超高真空)

ΔP=ガス移動量ΔQ(Pam3/sec)/配管のコンダクタンスC(m3/sec

例:配管のコンダクタンスC(m3/sec)=6.5E-2/√M・D3/L

  M:分子量、D:配管径、L:配管長

・・・配管の形状とそこを流れる気体の分子量により決まる。(分子流)

   分子流は分子同士の衝突を考慮しない。⇔ 粘性流

ガス放出の少ない材料で真空容器を作り、大きな排気速度のポンプで排気する。

ポンプは真空の欲しいところにできる限り近づけて、大きな径でつなぎ、圧力差がつかないようにする。

通常のガス放出=熱脱離(thermal desorption

時間、温度とともに枯れる。

SR特有のガス放出

放射光照射による脱ガス=光脱離(photo desorption

pd=ηNpK=ηIEK/ρ

p∝IE/ρ

η:イールド係数・・・moleculephoton

・・・物質による。Beam Doseとともに減少する。(枯れる)

p:単位長さあたりに発生するphoton

K:定数

I:ビーム電流

E:ビームエネルギ

ρ:偏向半径

ガス放出は、熱脱離、光脱離とも枯れて、減少する。

大気開放をしても、履歴が残り、元の枯れた状態にすぐ戻る。
 

蓄積リングの真空チェンバの材質


アルミチェンバ・・・主体

直線部チェンバSSC、偏向部チェンバBMC、クロッチCR

ベローズ部チェンバBE2,5C

ガス放出が少ない(ther.mal desorption

残留放射能が少ない

非磁性

熱伝導率が高い(240W/m/KSUS16、銅=400

軽い(比重ρ=2.69、 銅=8.93、鉄=7.86

押出で、好きな断面のチェンバが安価に作れる。

注:アルミは合金成分で性質が大きく異なるので、注意。

SUSチェンバ ベローズ部チェンバBE1,8C 電気抵抗が大きい=渦電流が小さい=早い応答のSTmag

無酸素銅、グリッドコップ

  放射光受光体(アブソーバ)

η(イールド係数、moleculephoton)が小さい

熱伝導率が高い(銅=400W/m/K

強度が必要な場合、グリッドコップ(無酸素銅+アルミナ)

  

放射光施設の比較
 
  E(GeV) I(mA) photon数 放射パワー
      ∝E*I ∝E^3*I
PF
2.5
400
1
1
ESRF
6
200
1.2
6.9
APS
7
100
0.7
5.5
SP−8
8
100
0.8
8.2
偏向電磁石の磁場は同じとして

蓄積リングの真空ポンプ


大気圧〜高真空

移動式排気系(MPS)

ターボ分子ポンプ(TMP)ロータリポンプ(RP)の組合せ

一部ロータリポンプをスクロール式ドライポンプに改造中
 
 

RP:油が排気に混じる。(実験ホールでは使用禁止) スクロール式DP:テフロンシールを用いているため放射線に弱い。 超高真空

NEG(Nonevaporable Getter)ポンプ 

St707@SAES GettersZirconium70%、Vanadium24.6%、Iron5.4%)

超高真空で大排気速度(H2CO

ストリップ式を用いて、真空チェンバ内に分布させる。(DNP)

真空中で温度を450*1hr保持すると活性になり、排気を始める。

活性ガス(CO2CON2O2H2O)とは反応して化合物を作り表面に吸着。

水素は固溶体を形成し、内部に拡散。

再活性:溜め込み式のポンプなので、満タンになると再活性する。

化合物は内部に拡散、水素は放出。

SIP(Sputter Ion PumpDIP(Distributed Ion Pump 陰極(チタン)と陽極間に高圧を印加し、電子を発生させ、磁場に閉じ込める。この電子と気体が衝突し(イオン化)、正イオンは陰極に飛び込みチタンをスパッタし、チタンは陽極、ポンプ容器に活性なチタン面を作り、ガス分子を捕獲する。

SIPは永久磁石で磁場を発生させているが、偏向電磁石の磁場を利用しているのが、DIPである。

TSP(Titanium Sublimation Pump)TGP(Titanium Getter Pump チタンを昇華させ、容器にチタン面をつくり、ガス分子を捕獲する。

フォトンダクトアブソーバ(pdab)に使用

蓄積リングの真空の測定


IVG(Ionization Vacuum Gauge)=BAG(Bayard-Alpert Gauge

熱電子を発生させ、電場に電子を閉じ込め*、気体分子をイオン化し、そのイオン電流を測定して気体密度とする。

E-2PaE-9Pa

エキストラクタゲージも使用

 

CCG(Cold Cathode Gauge)≒PG(Penning Gauge 高圧を印加し電子を発生させ、磁場中に電子を閉じ込め*、気体分子をイオン化し、陰極に飛び込むイオン電流を測定する。

E-1Pa(大気圧)〜E-8Pa・・・MPSで使用

TCG(Thermocouple Gauge)≒PIG(Pirani Gauge 気体の圧力により熱伝導が変化することを利用する。加熱した素子の温度を測り圧力に換算するのがTCG、加熱した素子の電気抵抗を測定し、圧力に換算するのがPIG。

E+3PaE-1Pa・・・MPSで使用

*:実際には閉じ込めるのではなく、飛行距離を長くする。

蓄積リングでの圧力測定の誤差

調査中です。長直線付近、セル3740は過小評価、それ以外は過大評価か?

 


Qmass 質量分析計(Quadrupole Mass Spectrometer

残留ガスの成分を分析する。

熱電子で気体をイオン化し(イオン源部)、イオンを四重極電極で質量/電荷の比で分離(分析部)、イオン電流を検出(検出部)する。

 

蓄積リングのその他の特徴的機器


RGV(リングゲートバルブ)

蓄積リングのRGVは二重シール バルブを閉にするとバルブ内部は密封状態となる。

・・・入射部とRFの上下流のみIPを取付

長直線上下流のRGVは1重シール

サイクル間の停止中は上記RGVを閉として、万一リークがあっても1/8周だけで被害を食い止める。

RFフィンガー、コンタクト ベローズ、RGVにはRFフィンガー、フランジにはRFコンタクトを入れ、真空チェンバ内面が段差やギャップ等の不連続部がなく滑らかにつながるようにしている。

不連続部に電子ビームが誘起する電磁場が、電子ビームに悪影響(ビーム不安定、エネルギー損失)を及ぼす。

機器も発熱・・・セル35_RV1損傷、セル37_RV1?

セル4のモニタセクションでベローズのRFフィンガーの温度を測定

リーフスプリング SSCチェンバの上流のBPM部は固定支持装置でベーキング中も動かないように支持している。

下流のBPMはリーフスプリング(板バネ)支持装置で、ベーキング中は軸方向の熱膨張を吸収し、ベーキング後は元の位置に戻るように支持している。

BPMのベーキング前後での位置再現性:50μm

蓄積リング真空系の系統


 
 

インターロック


圧力の悪化:1つのセルで2台の正常な真空計の接点がoffになるとabort

正常=filamentonしている。

接点=圧力1E-5以下でon

真空計の接点を直接PLCに入力しているため、データベースの圧力では引っかからないことが多い。

当該セルのrv1、rv2、上流セルのrv2を閉にする。

冷却水流量低:受光体の冷却水のフロースイッチの接点offabort AB1&2は接点付き流量計に交換。

AB3、4、CR1、2は流量が不明。弁の回転数でコントロール。

冷却水温度高:CR1冷却水の温度高でabort
 
 
 

蓄積リングの現在の問題点


真空計の誤差

BゾーンのAB1&2系(A1系)流量低アボートの多発

昨年夏の停止以降、標記アボートが多発している。

流量計は8L/minに設定したものが、45L/minに低下している。

同じヘッダのA2系は6L/minの設定流量に変化無し。

A1とA2の差は、入口調整弁がニードル弁かボール弁か。

Bゾーンのみで発生し、ACDゾーンでは発生しない。

推定原因:ニードル弁に汚れがたまり、流量が低下する。

調査:ニードル弁をボール弁に交換し、調査。

冷却水の汚れ